大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和41年(オ)463号 判決 1967年9月26日

主文

原判決を破棄し、本件を福岡高等裁判所宮崎支部に差し戻す。

理由

上告代理人持永義夫の上告理由第一、二点について。

原判決(その訂正、引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の確定したところによると、本件農地買収処分当時、本件(イ)の土地の所有者は被上告人であり、本件(ロ)の土地の所有者は、野口義明であつたというのである。したがつて、本件(イ)・(ロ)の各土地の所有者を小林富枝としてした本件各買収処分は、被買収者を誤つた違法な処分と認めるべきことは原判決の説示するとおりである。

ところで、原判決は、右説示に引き続き、本件(イ)の土地については、登記簿上の所有者である小林由太郎ではなく、また、真実の所有者である被上告人でもない第三者である小林富枝を所有者と誤認し、また、本件(ロ)の土地については、真実の所有者である野口義明が登記簿上も所有者として表示されているのにかかわらず、右登記簿の記載を無視して、関係のない第三者である小林富枝を所有者と誤認し、それぞれ、買収処分をしたものであり、このような所有者を誤認したかしは重大かつ明白なかしとして、前記各買収処分を当然無効ならしめるものである旨を説示している。

しかし、右の説示は、本件の具体的事情に対する配慮を欠く嫌いがあつて、ただちに納得しがたい。すなわち、所有者以外の第三者を被買収者としてした農地買収処分であつても、当然に重大かつ明白なかしがあるものとして無効であるとはいえない。けだし、農地買収処分にあたつて、政府において、誰が所有者であるかを認定するには、登記簿上の記載を重視することは当然ではあるが、登記簿上に所有者と記載されていない第三者を被買収者としてした農地買収処分の効力を判断するためには、登記簿上所有者と記載されていない者の名義で農地買収処分がされるにいたつた過程、目的農地の占有ないし耕作の状態、その時期、被買収者と表示されている者と真実の所有者ないし登記簿上の所有者との関係、その他右農地に関するすべての事情を綜合的にしんしやくしたうえで、その買収処分に重大かつ明白なかしがあるかどうかを判断して決すべきであるからである。

しかるに、原判決は、以上の諸点に思いをめぐらすことなく、原判決の確定した事実関係から、ただちに、このような所有者誤認のかしは重大かつ明白なかしにあたり、本件各買収処分は当然無効になる旨を判示しているのは、法令の解釈を誤り、ひいては審理不尽の違法をおかしたものというべきである(原判決引用の判例は、本件事案に適切でない。)。この点をつく論旨は理由がある。

よつて、その余の論旨に対する判断を省略して、民訴法四〇七条の規定にもとづき、原判決を破棄して本件を原審に差し戻すこととし、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中二郎 裁判官 柏原語六 裁判官 下村三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例